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2004.07.03

【Vol.1】記憶を再生する実験

■記憶を再生する実験

フロリダにあるアミューズメント・クリエイティブ研究所「イナホラボ」が、記憶を再生する装置の開発を行なっている。
それが「サードアイズ」というメガネ型のモニターと専用ソフトウェア「メモニック」だ。

イナホラボの所長は、この新製品の研究開発を日本企業と協力して行いたいと考え、僕を通じて株式会社アスキーにコンタクトをとった。

同社は、財政的な事情により資金協力が不可能であると回答。
が、研究内容には興味を示し、所長と協議の末、同社発行の情報誌の誌上にて研究開発のレポートを公開し、資金協力を公募することとなった。

この成り行きで、パイプ役であった僕が、メモニック被験者の追跡レポートをまとめることになったのである。興味を持たれた方は、同編集部まで連絡して頂きたい。(※当時、このように雑誌連載中に、被験者を公募していた)

まずは、僕のメモニック初体験レポートを読んで欲しい。

inaho011.jpgサードアイズおよびメモニック概念図。DVDプレイヤーの機種は問わず、市販品のものでもサードアイズおよびメモニックは可動。図はINAHOラボの会社案内資料より転載。(c)INAHO Lab.

■記憶の再生を体験

1998年4月1日。
都内の某ホテルにて、来日したイナホラボ所員2名立合いのもと、メモニック初体験。

サードアイズを身につけて、メモニックをスタートさせた。
起動音。イナホラボのロゴが表示。
イヤホンから、かすかなノイズ音がし、画面では赤や緑や青や黄色の光が明滅した。
すぐに目まいを感じ、数秒後に妙な匂いを「思い出した」。
実際には何もないのに、頭の中で匂いが充満する。
たとえば本を読んでるとき、実際に声は聞こえないのに、文字を頭の中で声に直して読んでいく。
その時の、頭の中の声のような匂いだ。
脳の中の匂い。

その匂いを感じた直後、中学校の教室に立っている自分に気づいた。

目の前のモニターに、記憶の中の映像が映し出されているわけではない。
夢を見るように、頭の中で記憶が再構築されるのだ。夢をはるかに凌駕するリアルさで。
僕の意識は現在のままなので、記憶の日の展開をすべて知っている。これから何が起こるのかということが、全部わかっていた。

それは、僕が母親を亡くした日の記憶だった。


■いじめられた記憶

中学2年の初夏。
水曜日。
4時限目の体育が終わり、教室に戻ると、自分のカバンが無くなっていた。

いつもの嫌がらせだと、わかっていた。
もう何カ月も、陰湿ないじめを受け続けていたため、犯人の目星もついていた。ただ、証拠が無かった。

カバンは、隣の音楽室にあった。
弁当箱が開けられ、オカズをほとんど食べ尽くされ、ご飯にはクレンザーがかけられていた。

これが、母親が作ってくれた最後の弁当になると、この時の僕は知らなかった。
だが、今の僕は知っている。何度も思い出しては、憎悪を育てた記憶だったからだ。

僕は、平然と自分の弁当を食べる首謀者と思われる奴の後ろへ近づき、そいつの後頭部に思いきりケリを入れた。

果たせなかった復讐。

上履きを通して足の裏に感じる衝撃が、僕の16年間の憎しみを晴らす手ごたえだった。
そいつは、声にならない悲鳴を上げた。ノドの奥に箸が刺さったようで、そのまま床にうずくまった。
当時の状況のまま、16年間もの憎悪を吐き出せる。転げ回るそいつの腹に3発ケリを入れた。
1発ごとに、僕の中を復讐の快感が駆け抜け、全身に力がみなぎった。

僕は止まれなかった。当時は、相手を傷つけることを極度に怯えていたが、今回は違った。
止めようと思っても止められない。快感の波に身を任せることを覚えてしまったためか、攻撃の快感を覚えてしまったためなのか。
僕は笑みを浮かべながら足を振り上げ、箸を抜こうともがく糞虫のような顔に一撃を加えようと踏み下ろした。

inaho012.jpgクレンザーをかけられた弁当を見下ろす被験者。その被験者が見ている映像をプリントしたもの。(c)INAHO Lab.

■タイムスリップ的感覚

唐突に、過去の記憶が途絶えた。

あれほどリアルだった記憶の夢は幻のように消え去り、目の前のモニターに明滅する光を見つめている自分に戻っていた。

このすごさは体験しなければ、わからないだろう。本当にタイムスリップしたような感じだった。
画面に映し出される映像では、ここまでのリアルさは絶対に得られない。
脳の中で夢のように体験するからそこ得られるリアリティだ。

メモニックでは、最も強い記憶が自動的にピックアップされるという。
つまり、使用者ごとに、まったく異なった記憶が再生されるのだ。

多くの人にメモニックを体験してもらい、その記憶の内容をインタビューする、という追跡調査が、実に興味深いものになってきた。
次号からは、被験者に対するインタビューを中心とした、追跡調査結果を掲載する予定。
乞う御期待。

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Comments

Mr.hanseiさま

初めまして。

このお話は、Storyですよね。
Historyなんかじゃ、ありませんよね。
ホントのお話だったら、新聞やTVが黙ってはいないですよね。
もし、ホントならその証拠となる新聞記事やTV番組をお知らせください。

by kanako

Posted by: さわや かなこ | 2004.07.03 23:41

kanakoさま

コメントありがとうございます。
新聞記事やTV番組は、まだありません。

ただし、この連載原稿に、大幅加筆した書籍が出版されています。

東京大学でバーチャルリアリティを研究しておられる廣瀬通孝工学博士や、オウム真理教事件関連でも有名な犯罪精神医学を専門とされる小田晋医学博士などへのインタビューを収録。

当時、小田博士からは、医学的に見ても記憶についての考察が極めて正しいと太鼓判を頂いきました。

▼こちらで購入できます
http://www.enterbrain.co.jp/jp/p_catalog/book/2000/4-7577-0010-5.html

Posted by: 筆者 | 2004.07.05 09:43

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Posted by: clash of clans hack online tool | 2015.09.21 12:59

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